民話「斑尾山の十二薬師」

これは、斑尾山の十二薬師さまの不思議なお話です。
斑尾山頂に十二薬師をまつった小さな古いほこらがあります。高さ二尺余(約六十センチ)、間口一尺五寸(約四十五センチ)ほどの苔むしたほこらの中には、風雨にさらされてお顔の形も定かでない、薬つぼを持たれた薬師如来像一体と、十二神将像と合わせて十三体の小さな石仏がまつられています。お祭りは、毎年六月の山開きのときに行われています。
さて、ある年の祭りの日のこと。この斑尾山頂のほこらは、下荒瀬原の即心院の奥の院にあたるので、ここの住職さんをはじめ、地元の衆や近在の人たちが今年も山に登っていきました。雪の多いこの地。とくに千三百メートル余もある山頂とあっては、石の仏さまたちは一年の半分も雪の下に埋もれておられます。住職さんは「さあ雪もようやくとけました。ご難儀だったことでしょう」と、仏さまを一体一体ていねいに取り出して、ほこらの外に並べました。そして、今年もまた無事でありますようにと祈ってお経をあげました。きめられた行事もいちおう終わり、集まった人たちのお参りもすんで、仏さまたちを元のとおりほこらに納めることにしました。
ほこらの中もきれいにして、奥の方からつめるように並べてきて、さて、あとおひとりだけというときになって、「へんだなあ。一体だけはみ出てしまう」
どうしたことかと、また全部お出しして、すきまなく、押しこむように並べていくのですが、やはり一体だけ納まらないのです。
「こんなおかしなことってあるかやなあ。お出しする前、ちゃんとちゃんと入っておられたのに」、「いったいどういうことなんだ」
しかたなく、おひとりだけ外にお出ししたまま、みんなは狐につままれたようなきもちで山を下りました。山開きが終ると、山は急ににぎやかになってきます。ぜんまいや木の芽など、山菜採りの人たちの姿が見られるようになります。
そんなある日、山開きに行った村人のひとりも山に登ってきました。薬師さまにお参りしようとして、見ると、あの外にはみ出たままだったはずの仏さまが、ちゃんとほこらの中に入っておられるではありませんか。
だれかがしたことなのか、おひとりでお入りになったのか、里に帰ってみんなに聞いてまわっても、とんとわかりません。
こんなふしぎなことが、この年だけではなく、何度もあったそうです。
また、この薬師さまにいたずらすると天候が悪くなるとも伝えられています。雨が降ると、里の年寄りたちは、誰からともなく、「おや、だれかまたお薬師さまをいびったな」と、いったものだといいます。
--天長八年(831年)に斑尾山がくずれて、たくさんの岩石がふもとにころげ落ちてきました。行基上人が仏さまをつくるために坐られた石の一部も、このときくずれました。十二薬師はその石を使って彫ったといい伝えられております。--

編:「信濃町の民話」かたかご童話会